この記事は、士業事務所のウェブサイトに導入や配置を検討しておきたい仕組みを、まとめてご紹介するものです。
以前の版を公開したのは2020年でした。当時は新型コロナの影響でオンライン対応が急務となり、その文脈で必要な仕組みを並べていました。
あれから数年が経ち、いま士業事務所のウェブサイトに求められるものは、また大きく変わりました。オンライン対応はもはや特別なことではなくなり、代わりに相談者が事務所を探す方法そのものが、検索エンジンの変化によって作り替えられつつあります。
そこで内容を全面的に見直し、2026年時点の版としてお届けします。
もしあなたの事務所で「この仕組みはこれこれの理由から導入しない」という判断があるなら、もちろんそれで構いません。導入することが目的ではなく、要否を一度検討しておくことが目的の記事です。
この記事の読み方
項目数が多いため、優先度で3つに分けました。
- A:まだなら、早めに……多くの士業事務所に当てはまり、放置すると不利になりやすいもの
- B:余裕ができたら……効果はあるが、Aを済ませてからで問題ないもの
- C:業務によっては不要……合う事務所には効くが、全事務所向けではないもの
また各項目に、ご自身で対応できるものか、制作会社に依頼する必要があるものかを添えてみました。上から順に読む必要はありませんので、気になる項目だけ拾ってみてください。
A:まだなら、早めに検討したい仕組み
1.オンライン相談の対応と、その告知
対応:ご自身で可能(告知の掲載は制作会社)
2020年の時点では「導入するかどうか」という話でしたが、現在は対応していること自体が珍しくなくなり、論点は「対応していることが相談者に伝わっているか」に移りました。
実際によくあるのが、オンライン相談に対応しているにもかかわらず、ウェブサイトのどこにもその記載がないというケースです。相談者は「この事務所は来所しないといけないのだろう」と判断して、連絡自体をやめてしまいます。対応しているのに使われないのは、もったいない話です。
書いておきたいのは、次のような項目になります。
- オンラインでの相談に対応していること
- 使用するツールと、相談者側に必要な準備(アプリの要否など)
- どの段階までオンラインで進められるか(初回のみか、最後までか)
特本人確認や原本の確認が必要な業務では、どこかの段階で対面が必要になります。「初回相談はオンライン、書類のお預かりは来所または郵送」といった形で、あらかじめ流れを示しておくと、相談者も予定を立てやすくなります。
なお、ツールはZoomに限りません。相談者が普段使っているものに合わせられるよう、複数に対応しておくと取りこぼしが減ります。ただし、対応ツールを増やすほど士業事務所側の手間は増えやすくなりますので、兼ね合いに注意してください。
2.Googleビジネスプロフィールの整備
対応:ご自身で可能
以前は「Googleマイビジネス」という名称でしたが、2021年にGoogleビジネスプロフィールへ変更されました。専用アプリも終了し、現在はGoogle検索やGoogleマップの画面から直接編集する形になっています。
事務所の所在地、営業時間、電話番号、写真を登録しておくという基本は変わりません。士業事務所の場合、これに加えて考えておきたいのが口コミへの向き合い方です。
事務所を探している人が、ホームページを見たあとに口コミを確認する、あるいは口コミを見てからホームページへ来る。この動きが当たり前になりました。つまり、ホームページとは別のところで、事務所の第一印象が形成されているということです。
守秘義務の関係で、士業事務所は飲食店のように気軽に口コミを集められるわけではありません。ただ、少なくとも次の点は確認しておく価値がありそうです。
- 事務所名・住所・電話番号の表記が、ホームページと完全に一致しているか
- 営業時間が現状と合っているか
- 既に口コミが付いている場合、返信をしているか
特に1つめは見落とされがちです。ビル名の有無や、番地のハイフンの書き方といった細かい違いでも、情報がうまくつながらない場合があります。
3.記事の書き手が誰なのか分かる状態にする
対応:制作会社(文章はご自身で)
これは近年、重要度が大きく上がった項目になります。
士業事務所が扱う分野は、お金や法律、人生の重要な手続きに関わるものがほとんどです。こうした分野では、書かれている内容が正しいかどうかに加えて、「誰が書いたのか」が強く問われます。
具体的には、記事の下部などに次の情報を表示します。
- 書いた人の氏名、資格、登録番号
- 経歴や取扱実績が確認できるプロフィールページへのリンク
- スタッフやライターが書いた記事の場合は、有資格者が確認した旨
匿名の記事と、実名と資格が明示された記事とでは、読んだ人の受け止め方がまったく違います。検索エンジン対策である以前に、依頼するかどうかを判断している人にとっての当たり前の判断材料です。
生成AIで記事を量産するサイトが増えたぶん、「実在する有資格者が書いている」という事実そのものの価値が、相対的に上がってきています。
4.AI検索に拾われる状態を整えておく
対応:制作会社
これが2026年版でもっとも新しい項目になります。
Googleで検索すると、検索結果の上部にAIによる要約が表示されることが増えました。対話形式で検索できるAIモードも、2025年9月から日本語に対応しています。
何が起きているかというと、「◯◯とは何か」「◯◯の必要書類は」といった一般的な疑問は、検索した人がどのサイトも開かないまま解決してしまうようになりました。既に検索する側で経験されている士業さんも多数いらっしゃいますよね。このAIによる要約によって、一般論を並べただけのページは今後さらに読まれなくなっていく可能性が非常に高いです。
一方で、AIの要約に情報源として引用されたページは、むしろクリックが増えているという調査結果も出ています。
つまり、これから考えるべきは「AIに引用してもらえる状態になっているか」です。ウェブサイト側でできることとしては、次のようなものがあります。
- 事務所の基本情報が、機械にも読み取れる形で記述されているか(構造化データ)
- 記事の結論が冒頭に書かれているか
- 見出しを見ただけで内容が分かる構成になっているか
- 書き手の情報が明示されているか(項目3と重なります)
構造化データの設定は制作会社側の作業となることが多いですが、記事の書き方の部分は、士業さんご自身が明日から変えられるところです。前置きを削り、結論を先に書く。まずは主要な記事から、この形式に変えてみるのもよいでしょう。
なお、この分野は変化が非常に速いため、「これをやれば大丈夫」という決定版はまだありません。現時点では、読む人にとって分かりやすい記事は、AIにとっても理解しやすいという原則を押さえておくこと、そして「これからはAIだ!」と極端な施策に振りすぎないように注意しておきましょう。
B:余裕ができたら検討したい仕組み
5.オンラインでの相談予約
対応:ご自身で可能(サイトへの設置は制作会社)
相談者が、事務所の空き枠を見ながら自分で面談日時を押さえられる仕組みです。
士業事務所のウェブ営業では、最初の連絡から実際に話すまでの時間が短いほど、受任率が上がります。ところがメールで日程を調整すると、「候補日を送る」「都合が合わない」「別の候補を送る」で数日が過ぎてしまいます。その間に他の事務所へ流れてしまうことも珍しくありません。
予約システムを使えば、このやり取りが一度で済みます。営業時間外に見ている相談者が、その場で枠を押さえられるという利点もあります。
ただし、次の点には注意が必要です。
- 相談内容によっては、事前に内容を伺ってからでないと枠を確保しづらい業務もあります
- 予約枠を開けすぎると、他の業務を圧迫します
- 初回相談が有料の場合、その旨を予約画面で明示しておく必要があります
すべての業務に向くわけではありませんので、まずは初回相談の枠だけ、といった限定的な使い方から試してみるのもよいかもしれません。
6.キャッシュレス決済と、請求・領収の電子化
対応:ご自身で可能
以前の版では、相談料や報酬のクレジットカード決済についてご紹介していました。この点は現在も有効です。初期費用や維持費がかからず、メールで決済用の請求書を送れるサービスが複数あります。
そのうえで、2026年時点では決済そのものより、請求書と領収書の電子化のほうが差し迫った課題になっている事務所さんが多いのではないでしょうか。
理由は2つあります。
- インボイス制度(2023年10月開始)により、請求書の記載事項と保存の要件が変わりました
- 電子帳簿保存法により、メール等で受け取った請求書・領収書は、2024年1月から電子データのまま保存することが必要になっています
これらは士業さんにとって、クライアントに助言する側の話であると同時に、ご自身の事務所の実務でもあります。
ウェブサイトの観点で言えば、決済と請求のオンライン化が済んでいると、遠方からの依頼を受けやすくなるという効果があります。オンライン相談に対応していても、支払いのために来所が必要では、地域の制約が残ってしまいますので。
7.表示速度の改善
対応:制作会社
以前の版では「スマートフォン対応」を項目に挙げていましたが、さすがに現在は前提条件になりましたので、内容を入れ替えます。
現在の課題は表示の速さと、操作に対する反応の良さです。Googleは2024年3月から、ページを操作したときの反応速度を評価指標のひとつに加えています。
士業事務所のウェブサイトで、表示速度を落とす原因になりやすいのは次のあたりです。
- 撮影したままの大きな写真を、縮小せずに掲載している
- 使っていないプラグインが動いたままになっている
- 外部サービスの埋め込み(地図、SNS、解析タグ)が積み重なっている
1つめは、ご自身で対応できる部分です。スマートフォンで撮った写真をそのまま掲載すると、必要以上に大きなデータになっていることがよくあります。
相談者は、表示が遅いというだけで直帰してしまうこともあります。せっかく検索結果から来てもらっても、読まれずに終わるのは避けたいところです。
8.ウェブアクセシビリティへの配慮
対応:制作会社
2024年4月の改正障害者差別解消法により、事業者にも合理的配慮の提供が義務づけられました。ウェブサイトの対応そのものが直接義務化されたわけではありませんが、相談の入口としてウェブサイトを置いている以上、無関係ではいられない領域です。
そして士業事務所の場合、これは法令対応という以前に実利があります。相談者に高齢の方が多い業務では、読みやすさがそのまま問い合わせ数に直結する</span >ためです。
大がかりなことをする必要はありません。次のような点を確認するだけでも、ずいぶん違います。
- 本文の文字が小さすぎないか、行間が詰まりすぎていないか
- 背景色と文字色のコントラストが十分か(薄いグレーの文字は読みにくいものです)
- 画像に文字を埋め込んだだけの箇所がないか
- フォームの入力欄に、何を書くのか分かる説明が付いているか
特に3つめは要注意です。料金表や業務の流れを画像で作っている場合、拡大できず、読み上げにも対応できず、検索エンジンにも内容が伝わりません。文字は文字として書いておくのが原則です。
C:業務によっては不要な仕組み
9.チャットボット
対応:制作会社との相談が必要
以前の版でもご紹介していましたが、中身は当時とまったく別のものになりました。
2020年頃のチャットボットは、あらかじめ用意した選択肢を相談者にたどってもらう方式が主流でした。現在は生成AIを使い、自由に入力された質問へ文章で答える仕組みが一般的です。
便利になった反面、士業事務所が導入する場合にははっきりとした注意点があります。
AIは、事実関係をあたかも正確かのように間違えることがあります。そして、事務所のウェブサイト上で誤った回答が表示されれば、その責任は事務所側に及びかねません。要件や期限、金額に関わる回答であればなおさらです。
そのため、導入するとしても用途を限定するほうがよいでしょう。
- ◯:よくあるご質問のページへの誘導、営業時間や所在地の案内、予約フォームへの案内
- ×:相談内容そのものへの回答、要件を満たすかどうかの判定、料金の確定的な提示
「answerを出す道具」ではなく「適切な窓口へ案内する道具」と位置づけるなら、取りこぼしを減らす効果が期待できます。逆にその線引きが難しい業務であれば、導入しないという判断も十分に合理的です。
10.ステップメール
対応:ご自身で可能(配信環境の設定は制作会社)
ウェブサイトを訪れた人が、その場では依頼を決めなかった場合に、継続的に接点を持ち、依頼のタイミングで思い出してもらうための仕組みです。相続や事業承継のように、検討期間が長い業務では特に効果があります。
この考え方自体は、現在も有効です。ただし2026年時点では、導入前に確認しておくべき前提が増えました。
2024年2月以降、GmailやOutlookなどの主要なメールサービスが、受信するメールの審査を大きく厳しくしています。一定量以上のメールを配信する場合、送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC)の設定と、ワンクリックで配信を解除できる仕組みが必須となりました。
これらが整っていない状態で配信を始めると、そもそも相手に届かない、あるいは迷惑メールフォルダに直行するという結果になります。届いていないメールをいくら書いても、効果はありません。
導入を検討する際は、まず配信に使うサービスがこれらの要件に対応しているか、そして事務所のドメインで認証の設定が済んでいるかを確認してください。
11.電話まわりの見直し
対応:ご自身で可能
以前の版では、対応エリアを広げる際にフリーダイヤルの導入を検討してはどうか、とご紹介していました。
この論点は、現在では弱くなったと考えています。オンラインでの相談が一般的になり、「市外局番が遠いから」という理由で問い合わせをためらう人は、以前ほど多くありません。
代わりに確認しておきたいのは、次のような項目です。
- スマートフォンの画面で、電話番号をタップするだけで発信できるようになっているか
- 事務所を空けることが多い場合、その電話をどこで受けるのか
- 営業時間外にかかってきた電話を、どう扱うのか
士業事務所への相談は、相談者が「いま話す時間がある」というタイミングで発生します。そのタイミングを逃すと、折り返しても話せないまま終わってしまうことが少なくありません。
近年は、事務所の電話をスマートフォンへ転送する仕組みや、複数人で受けられるクラウド型の電話サービスなど、選択肢がかなり増えました。フリーダイヤルよりも、まずは「かかってきた電話を取りこぼしていないか」を確認してみましょう。
あわせて確認しておきたいこと
「お客さまの声」を掲載している場合
こちらは仕組みの導入とは少し違いますが、この機会にあわせて確認するとよい項目です。
2023年10月から、いわゆるステルスマーケティング規制が景品表示法の対象となりました。事業者が自ら作成した内容を、第三者の感想であるかのように見せることが禁止されています。
士業事務所のウェブサイトでも「お客さまの声」を掲載しているケースは多いと思います。そして、以前は「これ、本当のお客さまの声!?」と疑ってしまうようなおかしな内容の掲載も目にすることがありました(よね?)。
この「お客さまの声」については、次の点を確認しておきましょう。
- 掲載している声が、実際に寄せられたものであること
- 謝礼や割引と引き換えに書いてもらった場合、その事実が分かるようにしていること
- 事務所側で内容を大きく編集していないこと
なお、各士業団体には独自の広告に関する規程がありますよね。所属される会の規程も併せてご確認ください。
まずはここから
いま何も手をつけていない状態から始めるのであれば、まずAの4項目を確認してみてください。中でも、以下の2つは確認が容易です。
- オンライン相談に対応しているなら、その旨がウェブサイトに書いてあるか
- Googleビジネスプロフィールの事務所情報が、ウェブサイトの記載と一致しているか
これらの仕組みは、すべて「相談しようとしている人の手間を減らす」ためのものです。流行しているから入れる、競合が入れているから入れる、という理由で導入したものは、たいてい使われないままで終わってしまいます。
(他事務所が導入していたので「うちも」と思って入れてみたものの、ほとんど使わずに終わってしまった……なんて経験、ないでしょうか?)
ご自身の事務所に相談してくる人が、どこで迷い、どこで手を止めているか。それをイメージしながら要否を判断していくのが、いちばん効果的です。




