ホームページ制作前に検討したい、業務規模、緊急性、地域性の3要素

士業事務所でウェブサイト(ホームページ)を営業ツールとして活用するなら、ウェブサイトで告知する業務の規模、緊急性、地域性を制作段階から意識しておくと効果的です。

特に開業当初に業務内容ごとのウェブサイトやページを制作していく場面では、それぞれの3要素が被りすぎてしまうと、事務所運営的には資金繰りの難が生じやすくなることも考えられます。

その意味では、事務所運営を軌道に乗せる前であるほど重要度が高い要素です。

ウェブサイトで取り扱う業務の規模

まず第一に意識したいのは、ウェブサイトで受任を目的とする業務自体の規模(仕事を終えるまでに要する日数)が、どれくらいのスケールかという点です。

業務の規模が大きいものほど、入口部分で単なる相談や打ち合わせが多くなり、実際にその案件が動き出すまでに日数を要します。また業務が動き出してから、つまり正式に受任して以降も業務自体に手間や日数を要するため、完了までの期間が長いものとなります。

そのため、特に開業当初は規模の大きな業務のみに絞るのではなく、入金までのサイクルが短くなる業務規模の小さなものと並行して、同時に公開するほうが相互補完となるため無難なケースがあります。

「この業務を主力としたいから」「この業務がメジャーであるから」という理由だけで公開する内容を検討していくと、そのウェブサイトが成果を上げる前に士業事務所の資金繰りが悪化してしまう危険がある、ということです。

なお、この記事を最初に公開した頃と比べて、ウェブサイトが検索結果で評価され、実際の依頼につながるまでの期間は長くなりました。競合するウェブサイトが増えたことに加えて、検索エンジン側の評価も慎重になっているためです。

公開すれば数か月で回り始める、という前提では資金計画を立てないほうがよいです。「最初の1年は成果が出なくても運営できる」という状態を確保したうえで取り組むのが無難です。

ウェブサイトで取り扱う業務の緊急性

次に意識したいのは、業務を依頼する側の緊急性です。緊急性の高い業務は、ウェブサイトの訪問者に「とにかく今、その問題を解決しなければならない」という状況が生じています。

そこで、一見しておかしなサイトでない限りは(そして問い合わせの電話対応さえ不愛想だったり不親切だったりしなければ)受任に至る可能性は比較的高めです。

ただし、これには条件があります。そのタイミングで連絡が取れることです。

緊急性の高い業務の訪問者は、複数の事務所に順番に連絡します。1件目で話ができればそこに決まりますし、つながらなければ次へ行きます。折り返しの電話をかけたときには、既に他所で話が進んでいたということが、この分野では日常的に起こります。

緊急性の高い業務を主力に据えるのであれば、ウェブサイトの出来映え以上に、電話やメールをどう受けるかという体制のほうが受任率を左右します。

逆に、訪問者の側で「今、すぐ相談しなければならないわけではないが、そのうち何とかしないといつか困ったことになる」くらいの緊急性しか生じていない業務は、ウェブサイトから依頼を得るまでの期間、相談から受任までの期間とも、大幅に長くなる可能性が高くなります。

そのため、開業当初は緊急性の低い業務だけに絞るのではなく、緊急性の高い業務と並行して制作、公開するほうが、事務所運営的には相互補完の関係として機能しやすいでしょう。

たとえば行政書士、司法書士、税理士、弁護士など、関係する士業資格の多い相続・遺言・後見的な分野は、競合するウェブサイトが多くなるだけでなく、緊急性の低い相談内容も多くなりますので、特に考慮する必要があるでしょう。(緊急性の高い一部の相続分野を除く)

ウェブサイトで取り扱う業務の地域性

もうひとつ意識しておきたいのは、ウェブサイトから受任を予定している業務の地域性です。よりわかりやすく言い換えるなら、あなたの事務所にその業務を依頼する可能性のある人が、その業務に対してどのくらいのエリアで絞って検索をかけてくるかということです。

この地域性を誤ってウェブサイトを作ってしまうと、検索サイトからの訪問者が無に等しい状態にいたります。そのため、地域性については公開前の段階で十分な検討が必要です。

ここで注意しなければならないのは、ウェブサイトの地域性を検討するとき、大事なのはウェブサイトを設置して業務を進行させる士業事務所の側がどれだけの地域に対応できるかではなく、あくまで検索サイトで語句を入力して訪問する人の側が、その業務にどれくらいの地域性を感じるかという点です。

極端な話、士業さんの側でいくら「この業務は全国から依頼が来ても対応可能だ」と考えても、訪問者の側で悩みや困りごとが生じて検索するときに、同じ都道府県の事務所、または同じ市区町村の事務所に依頼することしか想定しないのであれば、全国対応のウェブサイトを作る意味は非常に乏しくなります。そして、地域をできるだけ絞ったほうが、訪問者により合致感や共感を得てもらいやすいことから受任率も上がります。

業務の持つ地域性が、都道府県か市区町村かの判断は慎重に

ところでウェブサイトで取り扱う業務の地域性については、都道府県レベルのものなのか、市区町村レベルのものなのか、この2つの間で見当違いを起こしやすいので要注意です。

市区町村レベルの地域性を持つ業務に対して、都道府県レベルの地域性を設定してウェブサイトを制作すると、他にリスティング広告をかけたり、ページ数がかなり増えて自然検索からの依頼が増えるなどしない限り、反応は極端に乏しいものとなります。

一方、都道府県レベルの地域性を持つ業務に対して、市区町村レベルの地域性を設定してウェブサイトを制作すると、反応はまあまあ、あるいはたまにある程度は生じますが、本来それより数倍、十数倍の規模で受任できた可能性を逃してしまうことになります。

地域性は、勘ではなく調べることができる

その業務にどの程度の地域性があるかは、いくつかの方法である程度まで確認できます。

  • 検索候補を見る……検索窓に業務名を入れたとき、地域名が候補として表示されるかどうか。表示されるなら、その粒度(都道府県か市区町村か)がそのまま答えになります
  • 実際の依頼者に聞く……いちばん確実です。「どうやって当事務所を見つけましたか」「他にどこと比較しましたか」を、相談時に確認しておいてください

最後の項目は、開業前の士業さんには使えませんが、既に何件か受任している事務所さんであれば、もっとも精度の高い情報が得られる手段です。ただし、相談者の方はどうやって検索したかを忘れて曖昧な回答をすることも多々ありますので、間違った情報で判断しないように注意してください。

オンライン相談の普及で、地域性は二極化

地域性の現れ方は変化しています。

一方では、オンラインでの相談が一般的になり、来所を前提としない業務では地域性が薄れました。以前なら近隣の事務所しか候補に入らなかった依頼者が、他県の事務所も比較対象に含めるようになっています。

しかし他方で、地図から事務所を探す動きは、以前より強くなりました。スマートフォンで「◯◯(業務名)」とだけ検索し、表示された地図から近い事務所を選ぶ、という探し方です。

つまり、同じ業務でも「専門性で選ぶ人」と「近さで選ぶ人」に分かれるようになったともいえるかもしれません。

どちらを狙うかによって、力を入れる場所が変わります。前者ならウェブサイトの内容を厚くすること、後者ならGoogleビジネスプロフィールの整備が優先されます。

「サイトを分ける」か「1つにまとめる」か

この記事を最初に公開した2014年当時、士業事務所のウェブ集客では業務ごとに別のウェブサイトを立ち上げるという手法が一般的でした。相続専門サイト、建設業許可専門サイト、という具合に分けていく形です。

この手法には、いまも合理性があります。検索してくる人の目的と、サイトの内容が一対一で対応するため、合致感を得やすいからです。

ただし現在は、分けることによるコストとリスクが、当時より大きくなりました。

  • 保守の手間が人数分では済まない……サイトの数だけ、WordPressの更新、SSL証明書、バックアップ、サーバー費用が発生します
  • 更新が止まりやすい……1つでも更新に苦労する中、3つ4つを維持し続けられる事務所は多くありません
  • 内容が薄くなりやすい……分けた結果、それぞれが数ページしかない状態になると、どのサイトも評価されません
  • 似たページの量産と判定される危険……中身がほぼ同じサイトを複数持つと、検索エンジンのポリシーに触れる可能性があります
  • 事務所の実体が分散する……「誰が運営しているのか」が各サイトで薄まります

最後の項目は、近年特に重要になりました。検索エンジンもAIも、「その情報を誰が書いているのか」を以前より強く見るようになっています。実績も、著者情報も、口コミも、分散させるほど1か所あたりは薄くなります。

そこで現在は、次のように考えるのも一つの方法です。

分けたほうがよい場合

  • ターゲットがまったく別(相談者の属性も、検索する言葉も重ならない)
  • それぞれで十分なページ数を用意し、維持していける見込みがある
  • 地域性の設定が大きく異なる

1つにまとめたほうがよい場合

  • 更新に割ける時間が限られている
  • 業務同士に関連があり、同じ人が両方を必要とする可能性がある
  • 事務所としての実績や信頼を、一か所に積み上げたい

そして、この記事で扱う3要素の考え方は、サイトを分けても分けなくても変わりません。

開業当初だけでなく次の業務を追加するときも意識

以上のように、ウェブサイトで取り扱う業務の規模、緊急性、地域性という3つの要素は、開業当初においては特に意識するようにして、できる限りばらけた組み合わせを用意する。または、まず業務規模が比較的小さく、緊急性の高い業務からそろえるようにしていくと、事務所の資金繰りという面においては固定費等が賄いやすくなります。

そしてこれら3要素は開業当初だけでなく、事務所運営がある程度軌道に乗った後、新たな業務のページを追加する場面においても、意識するほど効果的なウェブサイトを構築・運用することができます。

ウェブサイトに用意する画像や文章などのコンテンツに関しても、その業務の規模や緊急性、地域性、それぞれを考慮しながら制作、配置するほうが、結果として訪問者の反応を得やすいからです。

まとめ:まず1つ書き出してみる

いま取り扱っている、あるいはこれから取り扱おうとしている業務を紙に書き出して、それぞれに次の3つを書き添えてみてください。

  • 規模……受任してから完了するまで、どれくらいかかるか
  • 緊急性……依頼者は「今すぐ」なのか「そのうち」なのか
  • 地域性……市区町村レベルか、都道府県レベルか、それ以上か

すべてが「規模が大きい・緊急性が低い・地域性が広い」に偏っていたら要注意。ウェブサイトを公開してから最初の依頼まで、かなりの期間を覚悟する必要があります。

その場合は、規模が小さく緊急性の高い業務を1つ加えておく。それだけで、事務所の運営は安心感が増すのではないでしょうか。

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