「検索エンジンの次は、AIのご機嫌を伺わないといけないのか」
このような声を、士業さんから耳にするようになりました。AIに事務所を紹介してもらうための対策、いわゆるLLMOという言葉が広まるにつれて、「相談者ではなくAIの顔色を見ながらホームページを運用するのは、どうも気が進まない」と感じる方が出てきているようです。
その気持ちは分かります。ただ、AIが何を手がかりに事務所をすすめているのかを考えていくと、少し違った景色が見えてきます。この記事では、SEO対策のこれまでを振り返りながら、AIとの付き合い方を考えてみます。
検索エンジンに好かれようと皆が必死だった
ホームページで集客しようとする人にとって、長いあいだ大きな関心事だったのは「検索結果の何番目に表示されるか」でした。
検索結果の上位に表示されるようにホームページを整えることを、SEO対策(検索エンジン最適化)といいます。ページのタイトルに業務名や地域名を入れる。相談者が知りたいことを記事にして増やしていく。スマートフォンでも読みやすくする。ほかのサイトから紹介(リンク)してもらう。士業事務所でも、こうした取り組みに時間をかけてきた方は多いと思います。
1ページ目に表示されるかどうかで、問い合わせの数が大きく変わる。そうなると、皆が必死になるのも無理はありませんよね。
順位を上げることだけを狙った手法も広まった
必死になる人が増えると、近道を探す人も出てきます。
当時の検索エンジンは、「ほかのサイトからどれだけリンクされているか」を、いまよりもずっと重く見ていました。多くのサイトから紹介されているページは、よいページだろうという考え方です。そこで、リンクの数そのものを増やす手法が広まりました。
- 被リンクの購入:費用を払って、ほかのサイトから自分のサイトへリンクを張ってもらう
- 相互リンク集:内容の関係を問わず、互いにリンクを張り合うためのページを作る
- サテライトサイトの量産:本体のサイトへリンクを送るために、中身の薄いサイトをいくつも作る
いずれも、訪問者に向けたものではなく、検索エンジンに向けたものでした。「検索エンジンのご機嫌を伺う」ことに徹した手法、といってもよいかもしれません。そして、一時的にはこれで順位が上がることもありました。
消えていったサイトと残ったサイト
ところが、検索エンジンの側も質の低いサイトを上位表示させたくはありません。Googleは評価の仕方を何度も改め、順位を操作するためのリンクを見分けて、評価しない、あるいは順位を下げるようになりました。現在では、こうしたリンクは「リンクスパム」として扱われています。
その結果、リンクを買い集めていたサイトや、サテライトサイトに支えられていたサイトの中には、ある日を境に検索結果から姿を消したものもありました。昨日まで1ページ目にあったサイトが、探しても見つからない。検索順位に頼って集客していた事業者にとっては、店の前の道がいきなり通行止めになるような出来事だったと思います。
一方で、残ったサイトもあります。相談者が知りたいことを、自分の言葉で丁寧に書いていたサイトです。派手に順位を上げることはなくても、評価の仕方が変わるたびに振り落とされることもありませんでした。
検索エンジンが目指していたのは、最初から「検索した人の役に立つページを上に出すこと」でした。リンクの数は、そのための手がかりの一つにすぎません。手がかりのほうだけを取り繕ったサイトは、見分けられるようになった時点で役目を終えた、ということになります。
相互リンクについては、次の記事でも書いています。
SEOが落ち着いたところへAIという経路が加わった
その後、SEO対策はずいぶん落ち着きました。近道はあまり通用しなくなり、「訪問者の役に立つ内容を、分かりやすく書く」という方向に洗練されてきたといえます。
そこへ新しく加わったのが、AIという経路です。
相談者はAIに事務所を尋ねるようになった
困りごとを抱えた人が、検索の代わりにChatGPTやGeminiなどのAIへ相談する。ひととおり説明を受けたあと、「(地域名)で、この手続きに詳しい事務所を教えて」と尋ねる。AIが、すすめる理由とともにいくつかの事務所を挙げる。こうした流れで問い合わせに至る方が出てきています。
今後、AIがさらに進歩していけば、相談者に代わって複数の事務所のホームページを読み比べ、料金や対応地域を表にまとめて見せる、相談の予約まで代わりに進める、といった使われ方も広がっていくかもしれません。事務所のホームページを最初に読むのが、相談者本人ではなくAIになる場面が増えていく、ということです。
一部の業務では検索広告を出しにくくなった
もう一つ、Google広告のルールにより、公的な書類や手続きに関わる一部の業務では、検索広告を出すのが難しくなっています。士業事務所の広告がすべて出せなくなったわけではありませんが、「検索で上位に出るまでは広告で補う」という方法を取りにくい分野が出てきました。
検索からの訪問は以前ほど伸びず、広告も出しにくい。そうなると、AIに事務所を紹介してもらうための取り組み、俗にいうLLMOも、視野に入れておく必要が出てきます。
このあたりの変化については、次の記事で詳しく書いています。
「AIのご機嫌を伺うのは気が進まない」という声
さて、冒頭の声に戻ります。
「相談者に向けて書くのなら分かる。でも、AIに気に入られるためにホームページを運用するのは、何か違うのではないか」
士業さんは、目の前の相談者や依頼者のために仕事をされています。ホームページも、その相談者に事務所のことを知ってもらうために作ったものです。それを、人ではなく機械の好みに合わせて作り変えていくように感じられるのであれば、抵抗があるのは自然なことだと思います。
かつてSEO対策で、キーワードの数や文字数を気にしながら記事を書いた経験のある方なら、「またあれをやるのか」という気持ちも重なるのではないでしょうか。
AIは何を手がかりに事務所をすすめるのか
ここでは一度、AIの側に立って考えてみましょう。
司法書士を例に挙げるなら、AIに「相続登記に詳しい司法書士を教えて」と尋ねた人は、何を求めているのでしょうか。AIが気に入った事務所、ではないですよね。求めているのは、自分が安心して相談できる、信頼できる事務所です。
AIは、その求めに応えようとします。立場としては、知人から「いい先生を知らない?」と聞かれた人に近いかもしれません。紹介する側は、自分の信用をかけて名前を挙げることになります。実態のよく分からない事務所や、何をしてくれるのか分からない事務所は、挙げにくいはずです。すすめた事務所で相談者が困るようなことが続けば、そのAIは信用されなくなり、使われなくなっていきます。
検索エンジンが「検索した人の役に立つページ」を探してきたのと同じように、AIは「尋ねた人が信頼できる、安心できる事務所」を探していると考えるのが自然ではないでしょうか。
これは、ご自身で確かめることもできます。AIに地域名と業務名を伝えて事務所を挙げてもらったあと、「なぜその事務所をすすめたのですか」と尋ねてみると、AIは理由を答えます。挙がるのは、たとえば次のような内容ではないでしょうか。
- 資格者の氏名や所属している会が明記されている
- 取り扱っている業務と対応できる範囲が具体的に書かれている
- 料金の目安が示されている
- 実務の経験にもとづく説明が詳しい
- ホームページ以外の場所でも事務所の情報を確認できる
「キーワードが多く含まれているから」「リンクをたくさん集めているから」といった理由は、あまり出てこないと思います。
人にしっかり伝えることと変わらない
上に挙げた理由を、もう一度眺めてみます。
誰が担当するのか。何をどこまで引き受けてくれるのか。費用はどのくらいか。この分野の経験はあるのか。ほかの場所でも名前を確認できるのか。
これは、初めて士業事務所に相談しようとしている人が、ホームページを見ながら確かめていることと同じですよね。
料金のページを例にすると分かりやすいと思います。「AIに向けて料金のページを作る」と考えると、何か特別な書き方が必要な気がしてきます。「相談者に向けて料金のページを作る」と考えると、報酬の目安はいくらか、実費は別にかかるのか、追加の費用が生じるのはどのような場合か、を書くことになります。そして、AIが読み取ろうとしているのも、その同じ内容です。
つまり、AIにすすめてもらうために必要なことは、相談者に向けて事務所のことをしっかり伝えることと、大きく重なっています。AIのご機嫌を伺うのではなく、相談者にきちんと伝える。その結果として、AIにも伝わるという順番です。
ここで、SEO対策のこれまでを思い出してみます。検索エンジンのご機嫌を伺うことに徹したサイトは消え、訪問者に向けて書いていたサイトが残りました。相手が検索エンジンからAIに変わっても、起きることは同じだと考えています。
AI向けの近道をうたう手法も、これから出てくるでしょう。ただ、AIが探しているのが「人が信頼できる事務所」である以上、AIにだけよく見せようとする工夫は、被リンクの購入と同じ道をたどるのではないでしょうか。いつの時代も、残るのは訪問者のことをきちんと考えて作られたホームページだと思います。
「それなら、うちは特別なことをしなくてよいのか」と思われた士業さんもいらっしゃるかもしれません。相談者に向けて丁寧に書いてきた事務所であれば、土台はすでにあります。あとは、その内容が画像の中の文字ではなく、文字として読み取れる形になっているか。そして、ホームページの外でも同じ内容を確認できるか、という点です。後者については、最後の項で触れます。
SEOだけのときより多角的に見てもらえる
むしろ、AIという経路が加わったことは、相談者に向けて書いてきた事務所にとって悪い話ではないと考えています。
検索順位は、いわば1本の物差しでした。どれだけ丁寧に書いていても、順位が2ページ目、3ページ目であれば、相談者の目に触れる機会は限られます。
AIは、検索結果の1番目から順にすすめるわけではありません。相談者が伝えた条件に合わせて、複数のページを読み、事務所ごとの違いを見ようとします。「土曜日も相談できる」「外国人の雇用に詳しい」「料金が事前に分かる」。こうした条件に合うことが読み取れれば、検索結果の1ページ目にいない事務所でも、名前が挙がる可能性があります。
順位という一つの数字ではなく、専門性や信頼性をいくつもの角度から見てもらえる機会が増えた、と捉えることもできます。開業して間もない事務所や、特定の業務に絞っている事務所にとっては、追い風になることもあるでしょう。
ただ、いくつもの角度から見られるということは、ホームページの中だけを見られるわけではない、ということでもあります。
AIは、事務所のホームページ以外の情報も合わせて読んでいます。地図に載っている情報、所属している会の名簿、ほかのサイトでの紹介。そこに書かれている内容がホームページと食い違っていたり、何年も前のままだったりすると、AIは判断に迷います。相談者が同じものを見ても、迷いますよね。
サイトの外でも事務所と資格者のEEATを伝えていく
Googleは、検索結果の品質を評価するためのガイドラインの中で、経験(Experience)、専門性(Expertise)、権威性(Authoritativeness)、信頼性(Trustworthiness)の4つを挙げています。頭文字を取ってEEAT(E-E-A-T)と呼ばれるものです。
もともとは検索の品質を評価するための考え方ですが、「この事務所は、実際の経験にもとづいて、専門家として、信頼できる情報を出しているか」という観点は、AIが事務所をすすめる際の手がかりとも重なるところが多いように思います。
このEEATは、ホームページの中を充実させるだけでは伝わりきりません。資格者のプロフィールや、実務にもとづく記事といったサイト内の土台に加えて、ホームページの外にある情報も整えていくことで、事務所と資格者の姿が立体的に伝わるようになります。
具体的には、次のようなところから手を付けられます。
- Googleビジネスプロフィール:所在地、電話番号、営業時間、取扱業務を現在の内容に合わせる
- 所属している会の名簿や会員検索:登録されている事務所名や所在地と、ホームページの表記を揃える
- 事務所名と資格者名の表記:法人化や移転の前の名称、旧字体と新字体などが混在していないかを見直す
- 寄稿、セミナーの登壇、取材:氏名、資格名、事務所名を添えてもらい、ホームページ側にも実績として載せる
- SNSや外部サービスでの発信:プロフィール欄に資格名と事務所名を書き、ホームページへリンクする
どれも、特別な技術が必要なものではありません。相談者がホームページ以外の場所で事務所の名前を見かけたときに、「ああ、同じ事務所だ」「実在する専門家だ」と分かるようにしておく作業です。
Googleビジネスプロフィールについては、次の記事で書いています。
「寄稿や登壇の機会なんて、そうそうないよ」と思われた士業さんは、上の3つ、つまり地図の情報と名簿と表記の見直しから始めても十分に意味があります。新しく何かを足すというより、すでに外に出ている情報を揃えていく作業ですから、思い立った日に進められます。
AIのご機嫌を伺う、と考えると、なんだか気が重くなってしまう。けれども、相談者に事務所のことを正しく知ってもらう場所が、ホームページの外にも広がったのだと捉えれば、やることはこれまでの延長にあるのではないでしょうか。







